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DEPS NEWS 2012年7・8月号
2013年7月26日

労働組合法上の労働者概念について

 

1.労働組合法上の労働者概念について検討する意義

 近年,労働者の働き方が多様化する中で,業務委託・独立自営業者といった就労形態(いわゆる個人事業主)が増加しています。こうした形態は,人件費の抑制・削減を図ることができ,また様々な労働法規制を回避できることから,企業側にはメリットがあります。
 他方,こうした背景のもと,個人事業主が労働組合を結成して労務供給の諸条件や契約の打切りについて団体交渉を求めたところ,労働者ではないとして団体交渉を拒否され,紛争にいたる事態が生じています。
 労働組合法3条で定義される「労働者」に該当するか否かについて判断が困難な事例が多い中で,確立した判例が存在しなかったこともあり,このような紛争を取り扱った労働委員会の命令と裁判所の判決で異なる結論が示され,法的安定性の点から問題となっていました。
 昨年の4月に,最高裁判所において,労働組合法3条の「労働者」にあたるかという点につき,2つの判決がなされました。そこで,今回は,上記最高裁判所の判例が与える影響と企業の価値を守る際の注意点についてお話します。

 

2.労働組合法上の労働者概念の基本的な考え方

 法律上の「労働者」については,労働基準法9条,労働契約法2条1項,労働組合法3条に定義規定が設けられています。同じ「労働者」の語句が用いられていますが,各法律における労働者概念は一致するわけではありません。
 労働基準法9条は,「この法律で『労働者』とは,職業の種類を問わず,事業または事務所(以下「事業」という。)に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。」と規定されています。労働基準法は,職場における労働条件の最低基準を定めることを目的としていますので,労働基準法上の「労働者」は,労働基準法が定める労働条件による保護を受ける対象を確定するための概念として規定されています。
 また,労働契約法2条1項は,「この法律において『労働者』とは,使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者をいう。」と規定しています。労働契約法は,労働契約の基本的な理念及び労働契約の成立や変更等に関する原則を定めることを目的としていますので,労働契約の当事者として労働契約法が定める労働契約の法的ルールの適用対象となる者を確定するための概念として規定されています。
 他方,労働組合法3条は,「この法律で『労働者』とは,職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。」と規定されています。労働基準法及び労働契約法と比較すると,労働組合法の「労働者」の定義には,「使用され」という要件が入っていません。したがって,失業者であっても「労働者」に該当し,労働組合法の保護を受ける職業別労働組合や産業別労働組合等の構成員になることができます。
 また,労働組合法は,「労働者と使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」を主旨としています。そうした労使対等の交渉を実現するために,団体行動権の保障された労働組合の結成を擁護し,労働協約の締結のための団体交渉を助成することを目的としています。
 そうすると,労働組合法の労働者は,主体となって労働組合を結成する構成員として,使用者と間で団体行動権の行使を担保した団体交渉法制による保護が保証されるべき者を指すことになります。
 したがって,労働組合法における労働者は,団体交渉の助成を中核とする労働組合法の趣旨に照らして,団体交渉法制による保護を与えるべき対象という視点から検討されることになります。

 

3.労働組合法上の労働者の判断基準

(1)判断基準
 労働組合法の趣旨等を踏まえると,労働組合法上の「労働者」は,売り惜しみのきかない自らの労働力という特殊な財を提供して対価を得て生活するがゆえに,相手方との個別の交渉において交渉力に格差が生じ,契約自由の原則を貫徹しては不当な結果が生じるため,労働組合を組織し集団的な交渉による保護が図られるべき者が幅広く含まれると解されています。
 そこで労働組合法上の労働者は以下の判断要素を総合勘案して労働組合法の趣旨から労働者性を判断することとなります。
 基本的な判断要素は,①事業組織への組み入れ,②契約内容の一方的,定型的決定③報酬の労務対価性です。
 補充的な判断要素は,④業務の依頼に応ずべき関係,⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,一定の時間的場所的拘束です。
 消極的要素は,⑥顕著な事業者性です。

(2)各判断要素の意義と具体例
 ア 基本的判断要素
  ①事業組織への組み入れ
    これは,相手方の業務遂行に不可欠ないし枢要な労
   働力として組織内に確保されており,労働力の利用を
   めぐり団体交渉によって問題を解決すべき関係がある
   ことを示す要素です。
    肯定的に解される事情の具体例は,以下のとおりで
   す。

   ◯契約の目的
    ・契約の形式にかかわらず,相手方と労務供給者の
     契約が,労働力を確保する目的で締結されている
   ◯組織への組み入れの状況
    ・業務の遂行の量的ないし質的な面において不可欠
     ないし枢要な役割を果たす労働力として組織内に
     位置づけられている
    ・評価制度や研修制度を設ける,業務地域や業務日
     を割り振るなど,相手方が労務供給者を管理して
     いる
    ・人手が不足したときは他の事業者にも委託する
     が,通常は労務供給者のみに委託している
   ◯第三者に対する表示
    ・相手方の名称が記載された制服の着用,名刺,身
     分証の携行等が求められているなど,第三者に対
     して相手方が労務供給者を自己の組織の一部とし
     て扱っている
   ◯専属性
    ・相手方から受託している業務に類似する業務を,
     契約上他の相手方から受託することができない
    ・相手方から受託している業務に類似する業務を他
     の相手方から受託することについて,契約上設定
     されていた権利義務としては制約がないが,当事
     者の認識や契約の実際の運用上は制約があり困
     難である
    ・相手方から受託している業務に類する業務につい
     て,他の相手方との契約関係が全く又はほとんど
     存在しない

  ②契約内容の一方的,定型的決定
    契約の締結の態様から,労働条件や提供する労務の
   内容を相手方が一方的・定型的に決定していること
    これは,相手方に対して労務供給者側に団体交渉法
   制による保護を保障すべき交渉力格差があることを示
   す要素です。
    肯定的に解される事情の具体例は,以下のとおりで
   す。

   ◯一方的な労働条件の決定
    ・契約締結や更新の際に,労務供給者側が相手方と
     個別に交渉して,労働条件等 の契約内容に変更
     を加える余地が実際にない
    ・労働条件の中核である報酬について,算出基準,
     算出方法を相手方が決定している
   ◯定型的な契約様式の使用
    ・相手方と労務供給者との契約に,定型的な契約書
     式が用いられている

  ③報酬の労務対価性
    労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれ
   に類するものとしての性格を有すること
    これは,労働組合法第3条の労働者の定義規定の文
   言上明示された「賃金,給料その他これに準ずる収
   入」に対応した要素であり,労務供給者が自らの労働
   力を提供して報酬を得ていることを示す要素です。
    肯定的に解される事情の具体例は,以下のとおりで
   す。

   ◯報酬の労務対価性
    ・相手方の労務供給者に対する評価に応じた報酬金
     等,仕事の完成に対する報酬とは異なる要素が加
     味されている
    ・時間外手当や休日手当に類するものが支払われて
     いる
    ・報酬が業務量や時間に基づいて算出されている
   ◯報酬の性格
    ・一定額の支払いが保証されている
    ・報酬が一定期日に,定期的に支払われている

 イ 補充的判断要素
  ④業務の依頼に応ずべき関係にあること
    これは,労務供給者が相手方からの個々の業務の依
   頼に対して,基本的に応ずべき関係にあること
    具体的な判断にあたっては,契約書の記載や契約上
   設定された法的義務の存否のみに限定せず,各当事
   者の認識や契約の実際の運用を重視すべきであるとさ
   れています。
    肯定的に解される事情の具体例は,以下のとおりで
   す。

   ◯不利益取り扱いの可能性
    ・契約上は個別の業務依頼の拒否が債務不履行等を
     構成しなくても,実際の契約の運用上,労務提供
     者の業務依頼の拒否に対して,契約の解除や契約
     更新の拒否等,不利益な取り扱いや制裁の可能性
     がある
   ◯業務の依頼拒否の可能性
    ・実際の契約の運用や当事者の認識上,労務契約者
     が相手方からの個別の業務の依頼を拒否できない
   ◯業務の依頼拒否の実態
    ・実際に個別の業務の依頼を拒否する労務供給者が
     ほとんどそんざいしない。または,依頼拒否の事
     例が存在しても例外的な事象にすぎない

  ⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,一定の時間的場
   所的拘束
    労務供給者が,相手方の指揮監督の下に労務の提供
   を行っている解することができること,労務の提供に
   あたり日時や場所について一定の拘束を受けているこ
   と肯定的に解される事情の具体例は,以下のとおり
   です。
   ◯労務提供の態様についての詳細な指示
    ・通常の委託契約における業務内容の指示ないし指
     図を超えて,マニュアル等により作業手順,心構
     え,接客態度等を指示されている
    ・相手方から指示された作業手順等について,事実
     上の制裁があるなど,労務供給者がそれらを遵守
     する必要がある
    ・業務を相手方の従業員も担っている場合,当該業
     務の態様や手続きについて,労務供給者と相手方
     従業員とでほとんど差異が見られない
    ・労務の提供の態様について,労務供給者に最良の
     余地がほとんどない
   ◯定期的な報告等の要求
    ・労務供給者に対して業務終了時に報告を求める
     等,労務の提供の過程を相手方が監督している
   ◯労務供給者の裁量の余地
    ・業務量や労務を提供する日時,場所について労務
     供給者に裁量の余地がない
   ◯出勤や待機等の有無
    ・一定の日時に出勤や待機が必要である等,場所に
     ついて労務供給者の行動が拘束されることがある
   ◯実際の拘束の度合い
    ・労務供給者が実際に一定程度の日時を当該業務に
     費やしている

 ウ 消極的判断要素
  ⑥顕著な事業者性
    労務供給者が,恒常的に自己の才覚で利得する機会
   を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者ではない
   こと
    以下のような事情がある場合には,労働者性が消極
   的に解されることとなります。
   ◯自己の才覚で利得する機会
    ・契約上だけでなく実態上も,独自に営業活動を行
     うことが可能である等,自己の判断で損益を変動
     させる余地が広範にある
   ◯業務における損益の負担
    ・相手方から受託している業務で想定外の利益や損
     失が発生した場合に,相手方ではなく労務提供者
     自身に帰属する
   ◯他人労働力の利用可能性
    ・労務供給者が他人を利用している
    ・契約上だけでなく実態上も相手方から受託した業
     務を他人に代行させることに制約がない
   ◯他人労働力の利用の実態
    ・現実に,相手方から受託した業務を他人に代行さ
     せる者が存在する
   ◯他の主たる事業の有無
    ・相手方から受託する事業以外に主たる事業を行っ
     ている
   ◯機材,材料の負担
    ・労務提供者側が,一定規模の設備,資金等を保有
     している
    ・業務に必要な機材,交通費,保険料,修理代など
     の経費を,実態として労務供給者が負担している

 

4.2つの最高裁判決

 こうした中,昨年4月,労組法上の労働者性について,2つの最高裁判例が出されました。
 1つ目は,新国立劇場合唱団事件(最判平23年4月12日)です。本件は,X財団がA組合に加入している合唱団員1名について,次期シーズンの合唱団として不合格としたことから,A組合がX財団に団体交渉を申し入れたところ,X財団が拒否したため,これが団体拒否の不当労働行為にあたるか否かが争われたものです。
 2つ目は,INAXメンテナンス事件(最判平23年4月12日)です。本件は,受託設備機器の修理補修等を業とするX社が,修理補修等の業務の委託を受けて当該業務に従事する者(システムエンジニア以下「CE」)の加盟するB組合から,労働条件の変更等を議題とする団交申し入れを受けたが,これを拒否したため,団交拒否の不当労働行為にあたるか否かが争われたものです。
 両判決では,原審(東京高裁)が否定した合唱団員とCEの労組法上の労働者性がいずれも肯定されました。両判決は,一般論としての規範は定立していませんが,上記の判断要素を用いて労働者性を判断しています。
 ここでは細かい説明は割愛しますが,各要素の判断において,当事者の認識や実態として,契約内容の交渉の余地があったか,個別の業務依頼に応ずべき関係にあったか等,契約書の記載や法的義務の存否よりも当事者の認識や契約の運用や就労の実態を重視する姿勢を打ち出していることに留意する必要があります。

 

5.むすびに

 以上,労組法上の労働者概念についてとりあげました。最高裁の判断が示されたことから,今後は上記判断枠組みに沿って判断されることとなります。もっとも,具体的な事案においては,いかなる場合に労組法上の労働者に該当するかは,未だ明確とはいえず,今後の事案の集積を待たねばならないところです。最高裁の判断枠組みを念頭に置きつつ,各要素に該当する事情が存在しないか注意を払うとともに,場合によっては,早期に専門家に相談することが大切でしょう。

 

弁護士 久保 豊年

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